個人情報氾濫(はんらん)への歯止めとして期待される個人情報保護法案が二十三日の参院本会議で可決、成立する見通しだ。県や県内の自治体、関係業界は一様に「基本的な法整備は必要」と受け止めているが、消費者団体などには「本当に個人情報が守られるのか」と不安視する声も上がっている。

消費者団体は不安視 関係業界「個別法見定める」

 四月から個人情報保護条例を施行した県は「保護の必要性は誰もが認めている」と同法を歓迎する。ただ、県条例は県保有の個人情報の保護を規定する一方、民間保有部分には触れていない。このため、法案の「個人情報の適正な取り扱いを確保するための事業者、住民への支援」とは何を指すのかなど、「個別法などの細部規定に何が盛り込まれるのかを見定めなければならない」(情報公開室)と冷静にみる。

 県内七十三市町村の約三分の一が個人情報保護条例を制定済みで、富士宮市などが検討中。七十一万の人口を抱える静岡市は「市保有の個人情報は市条例で保護されるため、同法の市民への影響は少ないが、民間部分は不透明」(総務課)と話す。浜松市も「法律自体は必要だが、運用面がどうなるのか。苦情への対応など、必要があれば市条例の改正を含め検討する」(総務課)という。

 ここ数年、県などの消費生活相談には資格商法や教材販売の勧誘で「一体どこから名前や住所の情報が流れたのか」との問い合わせが後を絶たない。鈴木耐子県消費者団体連盟副会長は「法律で本当にプライバシーが守られるのか不安。もっと慎重に審議すべきでは」と疑問を投げ掛ける。

 一方、静岡銀行は「既に個人情報の保護は徹底しているが、法案が成立すれば個人情報取扱事業者に該当することになる」とし、「法で定められるレベル以上のコンプライアンスプログラム(法令順守計画)を策定し、その実践、維持、改善を継続的に行う」(広報室)としている。

 消費者金融のクレディア(静岡市)も「法律制定はさらに厳格な対応の機会」(牧野広行経営企画室長)とし、コンプライアンス経営の一環として全社員の意識レベル向上を図るため、国際規格の「プライバシーマーク」の取得を検討している。

 その一方、「法案はまだ基本法。個別法がどうなるか、罰則規定がどうなるか今後を注目したい」と話すのは消費者金融など個人の信用情報を扱う静岡ベンダースセンター(静岡市)の木村貞文社長。県貸金業協会の鈴木満会長(富士市)も「個別法ができなければ今後のことは分からない」と言う。ただ「情報のたれ流しがなくなれば多重債務者が減る可能性もある」と期待する。

 法案への関心は通信、カタログ通販業界も高い。通信事業に力を入れるTOKAI(静岡市)は「法律の裏付けができれば、顧客にとってプラス」(岡野憲正常務法務室長)とみる。カタログ通販のムトウ(浜松市)は「顧客情報の取り扱いは徹底しているが、自社の取り組みが法律に沿っているかどうか施行までに再度見直したい」(総務部)としている。

県弁護士会・河村会長に聞く 「痛みなく進む病のよう」

 二十三日の参院本会議で成立の見通しとなった個人情報保護法案について県弁護士会の河村正史会長に、見解を聞いた。

―法案成立をどう受け止めますか。

 「審理の過程が非常に強引で、いいかげんな印象を受ける。これほど慎重に扱うべき問題について、参院特別委で打ち切り採決を行うなどおかしい。とても十分な議論が尽くされたとは言い難い。恣意(しい)的に解釈できる部分が多く、どう政府が運用するかにすべてがかかってくる。そうした意味で悪法だ」

―どんな懸念がありますか。

 「報道の定義は“事実を事実として”などと非常にあいまいだし、規制の対象となる業者の規定も不明確。メディアに限らず、現在のような情報社会では、われわれ弁護士会やNPOなど民間団体も、独自に情報収集や調査をし、意見を表明していく機会は多い。こうした活動についても政府の監督下に置かれるとすれば、憲法に定められた表現の自由、知る権利を侵害する危険性は高いと言わざるを得ない。第三者機関も結局必要なしとされた」

―行政機関の職員に罰則も設けられましたが。

 「行政については総じて甘い。相当な理由があると判断すれば、行政機関が情報を結合させ、内部で流通させることが可能になってしまう。情報漏えいに、かえって法的根拠を与えることにもなりかねない。罰則については、もともと規定があいまいなところに罰則を設けたところで、実効性は全くない」

―個人情報は守られますか。

 「思想、犯罪歴といったセンシティブ情報についても収集制限がない。分野ごとの個別法で規定すればいいというが、こうしたことは個人にとって最も知られたくない重要な部分。基本理念として盛り込むべきだった。八月から本格稼働する住基ネットと、今回の個人情報保護法の成立によって、国民総背番号制への道を開いてしまった。政府が個人情報を管理したいという意図は明白だ」

―市民生活には、どのような影響が出るのでしょうか。

 「法律が施行されたからといって、すぐに目に見える影響が表れるわけではない。それがむしろ怖いことだ。一般市民にとって知られたくない、あるいは集める必然性のない情報まで集められて、預かり知らないところで行政に利用される可能性がでてくる。さらに何かのきっかけで情報が外部に漏れれば、重大な結果を招く。痛みを伴わず、進行していく病気のようなものだ」
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